宇治自治体問題研究所
毎年各地で「記録的な豪雨」
宇治川は大丈夫か
「大戸川ダムと宇治川
建設が凍結されていた大戸川ダムの建設方針が急ピッチで浮上。
大 戸川は、宇治川・天ヶ瀬ダムの上流、瀬田川洗堰のすぐ下流で瀬田川に合流する河川です。
2019(H30)年5月30日付、滋賀県土木交通部流域政策局作成資料より

■水谷修・京都府議の報告
学習会に先立ち、大戸川ダム建設予定地を現地調査しました(黄野瀬滋賀県議に案内いただきました)。
水谷府議が学習会で報告された内容を、同府議が上記のユーチューブにアップされています(約22分)。
■大戸川ダム予定地の現地調査
中川先生の講義のポイント 1
要点と 資料パート1
近畿地方整備局が、大戸川ダムの京都府と大阪府における有用性を説くために作成した資料の内容それ自身が、逆にその有用性のないことを明確に示しており、つまり、整備局の述べる有用性議論そのものがまったくの虚構であると指摘。
詳しくは、上記のPDF資料をご覧ください。
大戸川ダムの建設費のうち、大阪府の負担金186億円、京都府の負担金128億円と莫大。大戸川の下流の両府にメリットが大きいから、それ相当の負担をせよということ。しかし、その議論が虚構にすぎないことが、整備局資料から明らかに。
また、滋賀県の勉強会における大戸川ダム有用性の議論は、大戸川の河川特性と琵琶湖の水理についての基礎的な理解に欠けていて的外れ。
大阪
淀川の両岸が破堤
4800haが浸水し、9兆円の被害
…本当か?
近畿地方整備局は、1972年台風20号の1.53倍の降雨を仮定することで、河川の左右両岸(旭区・東淀川区)に破堤位置を 選定し、破堤により大阪府内の4800haが浸水し9兆円の被害があるとした。
破堤を選定した地点を含め淀川の河口から約13~16km区間には、近畿地方整備局が自ら管理する淀川河川公園があり、これがこの区間の河積を小さくし、計算水位の上昇をもたらしている。
この9兆円被害想定が真に信頼に足るものと考えるのであれば、この河川構造をどうかしたら如何か。
詳細は、上記PDF資料1を
京都
桂川両岸(羽束師橋付近)で破堤
2兆円から3兆円の被害
…本当か?
近畿地方整備局は、1953(S28)年台風13号と2013(H25)年台風18号の降雨(「平均的は湿潤状態」に割増し)を仮定することで、桂川の左右両岸(羽束師橋付近)での破堤により、前者の降雨では京都府内の1800haが浸水し2兆円の被害、後者では2100haが浸水し3兆円の被害があるとした。
大戸川ダムの設置と“さらなる”河川改修により、この被害はどちらもゼロにできるとする。が、これは両効果の和であって、近畿地方整備局のモデル計算において、1953年降雨に対してダムの効果はまったくなく、2013年降雨では河川改修による計算水位の低下は2m程度であるのに対しダムのそれは数cmにとどまる。この計算結果は、桂川の被害低減への大戸川ダムの寄与がゼロかごくわずかでしかないことを示している。
詳細は、上記PDF資料1を
滋賀
大戸川ダム
大戸川の内水氾濫に効果あるか
洗堰の全閉問題に効果あるか
滋賀県知事の勉強会における大戸川ダム有用性の議論は、大戸川の河川特性と琵琶湖の水理についての基礎的な理解に欠けていて、的外れなものとなっている。
▻ダム湛水しない流量280㎥/s(洪水調整流量)のときですら、内水氾濫による被害が予測されている。
▻歴史的にも、大戸川治水の困難のひとつは田上山地からの流砂で、その河道への堆積が問題である。
▻洗堰が単に全閉か否か、または全閉時間の長短のみを問うのは無意味。洗堰からの総流下量を問うべき。
▻鹿飛渓谷掘削が琵琶湖水位へ及ぼす効果は、大戸川ダムの存在とは全く無関係である。
▻大戸川ダムが緊急放流を行う場合、下流の天ヶ瀬ダムも連鎖的に緊急放流に追い込まれる可能性が高い。
詳細は、上記PDF資料1を
中川先生の指摘
滋賀県知事「勉強会」の本来あるべきまとめ
1) 大戸川ダムは、その流域に固有の治水上の課題である“内水氾濫”や“流砂”には対応できず、また、勉強会の計算結果は、むしろ、よくある程度の出水に対してダムが無力であることを示している。
2) 大戸川ダムを琵琶湖水位の調節に利用できるよう運用した場合、琵琶湖水位に及ぼす影響の試算結果は-1cmから+2cmであった。もっとも、大戸川ダムは淀川下流域での水位の抑制を行う目的で設置されるため、その容量を琵琶湖水位の調節に利用できるよう計画されてはいない。
3) ダムサイト上流や、あるいは下流両府(大阪府・京都府)への影響は、水理の面に限っても全く検討しなかった。


現地調査(2021年7月4日)
大戸川下流域のハザードマップ。色がついているところが内水氾濫想定域。写真が小さくて見づらいですが、斜線のところが洪水想定域。
大戸川は内水氾濫が特徴です。
(右岸から左岸方向(南方向)を眺めているので、マップが天地逆になっています。)
中川先生の講義のポイント 2
要点と資料パート2-1
琵琶湖の水理
かつての異常な高水位の発生原理
および全閉問題
▻ 洗堰の設置以前、琵琶湖の異常な高水位は、一度の降雨による増水であるより、むしろ、湖水位がもとの水準に復帰しないうちに次の降雨が繰り返されるという何回かの水位上昇の逐次累積によりもたらされた。
▻ 洗堰の設置は上記の問題に対処するためである。現在の洗堰の全開放流800㎥/sによる琵琶湖水位の低下速度(1日に10cm)は、もはやかつてのような水位上昇の逐次累積を事実上発生させないほどには、十分早い。
▻ 他方、降水時に琵琶湖の水位上昇は1日で1mとなることもあり、これは流入量換算で8000㎥/sに相当するのに対し、洗堰の全開流量は800㎥/sであるから、洗堰操作でこれに対処できるものではない。
▻ かつての洗堰の全閉問題は、下流域で破堤浸水が発生した際、長期(時に1ヶ月以上)に渡り洗堰からの放流が制限され、その間、琵琶湖の高水位の継続を余儀なくされたことから生じた。
▻ 現在、全閉は行われたとしても数時間程度であり、また湖水位も上述のとおり十分早く低下させられる。
▻ 単に全閉の存否や全閉時間の長短のみを問う議論はあまり意味がない。実際、現在もときに実施される全閉回避のための微量放流(50㎥/s)において、湖水の低下量はごくわずか(1日に0.6cm)に過ぎない。
詳しくは、上記のPDF資料2-1を
三川合流地点の水理
宇治川への背水
近畿地方整備局「治水の考え方」は、三川合流地点の水理についての同局の理解に問題のあることを明証。
1)出水時の三川流量は、
木津川 > 桂川 > 宇治川
2)主に木津川と桂川の河水により、河川勾配の一番小さい宇治川への背水が発生
3)天ヶ瀬ダムによる洪水調節の能力の過大評価(その2次調節で、下流全域での水位低下はせいぜい20cm)
詳しくは、上記のPDF資料2-1を
淀川水系の特徴を踏まえた治水の考え方
近畿地方整備局(2019年3月19日)
淀川水系の特徴である琵琶湖、狭窄部、三川合流部を踏まえ、上下流バランスを確保しながら、流域 全体の治水安全度を向上させる。
・琵琶湖を活用した効率的な治水対策を実施。(瀬田川洗堰の全閉を前提とした操作規則を適用)
・三川合流部の水位低下が各支川の治水安全度向上に有効。(天ヶ瀬ダムの重要性)
・流量増を抑制してきた狭窄部の上流部でも被害を軽減する対策の検討が必要。