宇治自治体問題研究所
(4)本ページ 宇治川1500㎥/s放流
国交省は、瀬田川・宇治川に1500㎥/sを放流することを目的に、(上流から)①瀬田川洗堰下流の掘削(継続中)、②鹿跳渓谷の放流量増大の方策検討、③天ヶ瀬ダムの再開発事業(22年6月完成予定)、④塔の島付近の掘削(完了)、⑤宇治川堤防の強化、⑥宇治川・三川合流点下流の掘削の検討(河川整備計画(変更原案))を進めています。
琵琶湖後期放流時に1500㎥/sの放流が計画されています。放流量の多さと、放流期間が長期(下図では10日間)に及ぶことから、宇治川堤防が耐えられるか、がポイントのひとつです。
さらに河床掘削(⑥)は、宇治川の特徴(人工河川、天井川など)から、パイピングの危険性を増すのではないかも、ポイントです。
天ヶ瀬ダム再開発事業
国土交通省は現在、天ヶ瀬ダム再開発事業を行っている(完成予定R3年度)。
天ヶ瀬ダムのバイパスのトンネル(放流量600㎥/s)を設置するもの。この事業の目的は下記の3点としている。
■目的①
治水(洪水調節機能の強化)
■目的②
利水(発電能力の増強)
利水(京都府の水道用水の確保)
*写真、画像、白地の文字は、琵琶湖河川事務所のホームページから。
■宇治自治問研(T)コメント
■疑問①
再開発事業の目的の説明「下流に対する効果」に「宇治川・・への洪水調節機能が強化されます」とある。しかし、「再開発後の調節可能洪水数の比較」表では、再開発による宇治地点の新たな効果は書かれていない。この表では宇治川が強化しているか分からない。
■疑問②
H25年台風18号時、天ヶ瀬ダムの最大放流量は1,160㎥/s(数時間)。その際、宇治川堤防で露水が発生し、4カ所で水防工法(月の輪工法)が施された。宇治川堤防の脆弱さが露呈した。
再開発事業は、宇治川洪水時1,140㎥/s、後期放流時1,500㎥/sの放流能力を持たせることとされている。ところで、後期放流は巨大な琵琶湖の水位低下を目的するもので、後期放流期間は短縮するものの(14日→10日)、長期に及ぶ(グラフ参照)。
1,500㎥/sに流量を増やし、1週間、2週間も連続放流した場合、宇治川堤防は長期の負荷に耐えられるか。
「宇治川51.2k地点」の図・グラフは、塔の島付近の河床掘削の図と、琵琶湖後期放流による水位上昇期間のグラフ・・この2つのことが書かれています。
琵琶湖河川事務所ホームページ「天ヶ瀬ダム再開発 事業効果」
■宇治自治問研(T)コメント
24,300人の人口減
宇治市・城陽市・八幡市・久御山町の人口(国勢調査)は、2000年と比べ、2020年は24,300人減少。人口減少は今後も見込まれ、水の需要も減少するものと思われる。
国勢調査のデータから作成
2004(H16)年10月4日 琵琶湖河川事務所
淀川水系流域委員会
第6回ダムWG(H16.10.4)
資料 1-2※
2004(H16)年10月
宇治川の流下能力増大
宇治川で改修できる規模は、流下能力と事業費の関係からも、塔の島地区で評価すると1,500㎥/s程度になります。
塔の島地区の流下能力を1,500㎥/s以上確保するためには、当該地区より下流においても掘削が必要となるため、事業費が増大するとともに、景観への影響範囲も拡大します。
宇治川の堤防は、長期間にわたる琵琶湖後期放流1,500㎥/sに耐えられるのか
宇治川の堤防補強については、現在実施中の堤防の詳細調査を早期に完了させ、対策が必要な箇所を抽出します。補強工作についても「淀川堤防強化委員会」の検討を踏まえ、早期に決定します。これらの検討は、平成16年度の上半期を目途に完了させ、結果を公表します。
なお、宇治川の堤防強化については、洪水(後期放流時を含めて)の安全な流下を図る上で必要不可欠な対策です。
2009(H21)年3月
堤防の強化
2009(H21)年3月31日
国交省近畿地方整備局
(2) 堤防強化の実施
堤防は計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造としなければならない。
しかし、これまでに整備されてきた堤防は、材料として品質管理が十分になされているとは限らない土砂を用いて、逐次築造されてきた歴史上の産物であること等から、計画高水位に達しない洪水であっても、浸透や侵食により決壊するおそれがある箇所が多く存在する。
このため、これまでに実施した堤防の詳細点検の結果や背後地の状況等をふまえ、堤防強化を本計画期間中に完成させ、計画高水位以下の流水の通常の作用に対して安全な構造とする。また、これらの対策により、堤防の強度が全体として増すことから、決壊による氾濫が生じる場合でも避難時間の確保に寄与することが期待できる。 (図4.3.2-4)
あわせて対策効果等のモニタリングを実施する。(64ページ)
別途資料3 67ページ
2019(H31)年4月
2019(H31)年4月22日
国交省近畿地方整備局
宇治川堤防の安全性の課題
指摘②:宇治川の堤防は高い水位が長く続く特殊な状況を踏まえた上での強化を検討すべき。
・宇治川では平成25年洪水において、全川にわたり、計画高水位を超過し、堤防漏水が多発。
・近年でも全国的に堤防被害が発生しており、特に宇治川では、長時間高水位が続くことから堤防の安全性が課題。
■Tコメント
2004(H16)年10月4日付の淀川水系流域委員会の資料に、琵琶湖後期放流1,500㎥/sに耐えるために「宇治川の堤防強化」の必要性が強調されています。
その9年後の2013(H25)年9月の台風18号による洪水で、宇治川で「堤防漏水が多発」しました。台風18号洪水で、天ヶ瀬ダムから計画放流量(840㎥/s)を越えて放流した時間は4~5時間です(最高1,160㎥/s)。
天ヶ瀬ダム再開発は、琵琶湖後期放流時に天ヶ瀬ダムから1,500㎥/sを放流することを目的にしています。はたして「宇治川堤防は、長期間にわたる琵琶湖後期放流1,500㎥/sに耐えられるのか」。
2019(R元)年12月
下記の図は「説明資料」の「治水・防災」の項の9ページ、12ページの説明図です。
近畿整備局のホームページ「淀川水系河川整備計画に基づく事業等の進捗点検」の各年のPDFの「平成30年度淀川水系河川整備計画に基づく事業等の進捗点検に関する報告書」をクリックすると、左記の「令和元年度進捗点検結果説明資料」が開く。
「治水・防災」の項の9ページ
全体
堤防は計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造としなければならない。
しかし、これまでに整備されてきた堤防は、材料として品質管理が十分になされているとは限らない土砂を用いて、逐次築造されてきた歴史上の産物であること等から、計画高水位に達しない洪水であっても、浸透や侵食により決壊するおそれがある箇所が多く存在する。
このため、これまでに実施した堤防の詳細点検の結果や背後地の状況等をふまえ、堤防強化を本計画期間中に完成させ、計画高水位以下の流水の通常の作用に対して安全な構造とする。また、これらの対策により、堤防の強度が全体として増すことから、決壊による氾濫が生じる場合でも避難時間の確保に寄与することが期待できる。
堤防強化については、その対策が必要となる区間は81.5kmと長く、その対策には相当な費用と期間を必要とすることから、各区間毎の安全性や緊急性をふまえ優先度の高いところから実施する。また、出水による堤防の被災状況などを踏まえ、下記区間以外で安全性の低い区間が抽出された場合には、必要な対策を検討のうえ実施する。
(整備計画記載箇所:p64~p65)
堤防強化の実施
【観点】堤防の強化対策の実施
【指標】HWL以下、浸透、侵食対策実施内容・延長、堤防天端以下、侵食対策実施内容・延長、堤防天端舗装実施内容・延長
「治水・防災」の項の12ページ
■Tコメント
本ページの、2019年4月22日付の図面(H25年台風18号洪水による宇治川堤防の漏水箇所)、2019年12月の堤防改修の図面を参照。
9ページに「宇治川では、平成28年度に全ての浸透対策を完了した」とあります。浸透対策を実施した箇所の図面を発見できません。
「堤防構造を工夫する対策として、堤防天端舗装と裏法尻補強を実施」した図面の箇所は、H25年に漏水したところではありません。
H25年18号台風での漏水箇所は、どのように対策が対策されたのでしょうか。
瀬田川・鹿跳渓谷・塔の島
下図は、淀川水系流域委員会の審議資料1-3-5(2007(H19)年11月26日)、淀川河川整備計画(2009(H21)年3月31日)添付資料3、令和元年度進捗点検結果説明資料(2019(R1)年12月)より。
瀬田川、宇治川に1500㎥/sの放流を行うために、天ヶ瀬ダム再開発事業だけでなく、瀬田川洗堰下流の掘削(事業中)、鹿跳渓谷の検討、塔の島地区の掘削(完了)を、国土交通省は取り組んでいます。
さらに、宇治川、三川合流地点下流の河道掘削が検討されています(河川整備計画(変更原案))。
【淀川河川整備計画 2009(H21)年3月31日】
瀬田川では、琵琶湖の後期放流に対応するため、大戸川合流点より下流において1500㎥/sの流下能力を確保する。このため、大戸川合流点から鹿跳渓谷までの河床掘削を継続実施する。優れた景観を形成している鹿跳渓谷もついては、学識経験者の助言を得て。景観、自然環境の保全や観水性の確保などの観点を重視した河川整備について検討して実施する。写真4.3.2-7
【令和元年度進捗点検結果説明資料 治水P16 2019(R1)年12月】
瀬田川では、天ケ瀬ダム再開発および宇治川改修とのバランスを確保しつつ、琵琶湖の後期放流に対応した1500m3/sの河道掘削を実施。
鹿跳渓谷については、優れた景観を有していることから学識経験者の助言を得て、景観、自然環境の保全や親水性の確保などの観点を重視した河川整備について検討した上で、整備に着手する。
【淀川河川整備計画 2009(H21)年3月31日】
山科川合流点より上流の宇治川においては、天ヶ瀬ダムを効果的に運用し宇治川及び淀川本川において洪水を安全に流下させるとともに、琵琶湖に貯留された洪水の速やかな放流を実現するため、1,500m3/s の流下能力を目標に、塔の島地区における河道整備及び天ヶ瀬ダム再開発事業による天ヶ瀬ダムの放流能力の増強を行う。(74ページ)
【令和元年度進捗点検結果説明資料 P6 2019(R1)年12月】
塔の島改修事業の完成
○昭和56年度から30年以上に渡り実施してきた塔の島改修事業が平成30年度で完成。
○これにより宇治川で河川整備計画の目標洪水である昭和28年台風13号洪水を安全に流下させる事が可能となった。
2021(R3)年4月
淀川水系流域委員会専門委員会
令和3(2021)年4月12日開催
参考資料1-1
4.3. 治水・防災
4.3.1. 淀川水系における治水・防災対策の基本的な考え方
(略)
宇治川、桂川については、平成 21 年に策定された河川整備計画の目標洪水(いずれ も昭和 28 年台風 13 号)を上回る洪水を経験したため、平成 25 年台風 18 号洪水を安 全に流下させることができるようにするものである。(略)
目標洪水が流下した場合の基準地点および主要地点の河道目標流量は表 4.3.2-1 の とおりとする。(変更原案62~63ページ、赤字も変更原案)
堤防については、最新の知見に基づき堤防の質的強化を行い、計画高水位以下の流 水の通常の作用に対して安全な構造とする。また、水害リスクの高い区間等においては、 施設能力を超える洪水に対して、河川堤防を越水した場合等であっても決壊しにくく、堤 防が決壊するまでの時間を少しでも引き延ばすなどの粘り強い河川堤防について検討・ 整備を行う。これらの対策により堤防の強度が全体として増すことから、決壊による氾濫 が生じる場合でも避難時間の確保や氾濫範囲の低減に寄与することが期待できる。
さらに、淀川下流部においては、人口、資産が高密度に集積していることから、淀川本 川ではまちづくりとあわせて、計画を上回る洪水に対しても、堤防が決壊しないよう高規 格堤防を整備していく。
なお、現在のところ一連の堤防で耐越水機能を確保する技術的知見が明らかになって いないため、耐越水機能を確保するための堤防の整備を行うことはできない。このため、 一連の堤防で耐越水機能を確保する技術について引き続き調査・研究を進めることとす る。(変更原案63ページ、赤字も変更原案)
三川合流部の下流掘削
淀川本川の橋梁の改築後においても、計画規模の降雨が生起した場合には、淀川本川 で計画高水位を超過することが予測されるため、これを生じさせないよう中・上流部の河川 改修の進捗と整合をとりながら現在事業中の洪水調節施設(川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、 大戸川ダム)を順次整備する。(図 4.3.2-16)あわせて、三川合流点下流の河道掘削を行い、 淀川本川下流に流量増とならない範囲で上流域の水位を極力低下させる。堤防整備にあ たっては、掘削土も活用する。(変更原案66ページ、赤字も変更原案。アンダーラインは宇治自治研(T)。)
宇治川の河道掘削
3)宇治川
山科川合流点より上流の宇治川においては、天ヶ瀬ダムを効果的に運用し宇治川及び 淀川本川において洪水を安全に流下させるとともに、琵琶湖に貯留された洪水の速やかな 放流を実現するため、天ヶ瀬ダム再開発事業による天ヶ瀬ダムの放流能力の増強を行うと ともに大戸川ダムの整備を行う。
また、戦後最大の洪水である平成 25 年台風 18 号洪水を安全に流下させるための河道掘削を実施する。堤防整備にあたっては、掘削土も活用する。
これにより、宇治川においては、目標洪水を安全に流下させることが可能となるとともに、 淀川水系全体の治水安全度の向上に効果のある大戸川ダム、天ヶ瀬ダム再開発と合わせ、 その結果、降雨確率で概ね 1/150 の洪水に対応できることとなる。(図 4.3.2-18~21)
また、全川的に軟弱な粘性土層が露出しており、露出箇所においては河床低下や河岸 侵食が進行していることから、モニタニングを継続するとともに、必要な対策を検討して実施 する。(変更原案68ページ、赤字も変更原案。アンダーラインは宇治自治研(T)。)
宇治川の特徴から
宇治川の河道掘削は
パイピングの危険性を拡大するのではないか
下の3つの図面・グラフは、「地質学的に見た宇治川堤防の安全性」(国土研・紺谷氏2021年12月18日)から
■伏流河川の問題
2万分の1地形図 明治18年~22年測量 明治20年~24年製版
宇治川と交差する河川は伏流河川の存在を示す(国土研・紺谷氏コメント)
■河床低下の問題
完成当時の三栖閘門(宇治川から撮影)1929年(昭和4) 淀川河川事務所HP
■宇治川は天井川
下の3つの図面は、2020年9月6日「河川の安全・防災の視点」の講演会(宮本博司さん)から
宇治川は、巨椋干拓田よりも高いところを流れる天井川
■宇治川は人工河川