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毎年各地で「記録的な豪雨」

宇治川は大丈夫か

宇治川の概要

​河川の安全・防災を考える視点

​公開講座 2020年9月6日

​講師   宮本博司さん

レポート(本ページ)

「住民と自治」の「Jつうしん」​

「くらしと自治・京都」

講演要旨(文責:宇治自治問研 H・T)

雑誌「住民と自治」20年11月号の「Jつうしん」から

Y・F

 私たちは、2012年に宇治市で発生した京都府南部豪雨災害の経験と、毎年のように全国各地で頻発している河川災害の状況を受け、宇治川を中心とした河川をめぐる防災をテーマに1年間学んでいくことを決めました。第一弾の企画として、2020年9月6日(日)に公開講演会を開催しました。

 講演では宮本博司氏(元国土交通省淀川河川事務所長)から、これまでの公務員時代の経験や現場で体験したこともふまえ、堤防やダムの役割、宇治川をめぐる課題などについてお聴きしました。

 ①堤防は単に土が盛られているだけであり、非常に危険なものである。②「想定外」と豪雨災害のたびに言われるが、自然に「想定外」は通用しない。この「想定」という考え方がそもそも間違っており無責任である。③明治以降現在までの治水の考え方の基本は、大きな河川に流量を集約し海に流すということだったが、それは誤りである。一たび堤防が決壊してしまえば、人命に関わる甚大な被害が起こるため、いかに流量を分散させて堤防の決壊、洪水を凌(しの)ぐのかが重要である。そういうことを私たちは講演で学びました。

​ 行政も住民も一体となって、河川防災・治水についてお互いに理解を深め議論を行っていくことが重要です。今回の講演を契機に、実際に現場を見て感じることを重視し、今後フィールドワークなども企画していきたいと考えています。

​河川の安全・防災を考える視点

<講演の報告>

研究所会員 M・Y

京都自治体問題研究所 月報「くらしと自治・京都」20年11月号から

 2020年9月6日、宇治市生涯学習センターで「宇治川について考える視点」講演(宇治自治問研主催)が行われました。

多くの参加がありました。

​ 講師は、宮本博司さん(元国土交通省淀川河川事務所長、元淀川水系流域委員会委員長)で、これまでの業務経験をもとに実際に宇治川を歩いて感じたことや河川の堤防やダムについて機知に富んだ講演が行われました。

1.はじめに

​ 昨今頻発に発生している地球規模の自然災害に対し、政府や自治体は安心安全をテーマに掲げて政策対応しています。

しかし、その政策がしっかりとした根拠のあるものかを知ることが我々自身にとって大切であると考え、身近な宇治川を題材とし、河川の安全や防災について研究とすることを目標としました。

2.「百聞(文)は一感に如かず」

​ 宮本さんがまず最初に言われたことが、この一言です。いかに多くの文献を読み、有識者の講演を聞いたとしても、一時的に分かったように感じるが、何も残らない。まず、自分が現場で感じて学ぶことが重要であり、その中で裏付けや根拠となる文献を読み、学ぶことが大切であるということです。

 宇治川のことを知るには、現地を歩くことから始め、それも上流や下流から、堤防の上や河川敷等、色々な角度から観察し、何回も行うこと。また、歩くときは頭を真っ白にし、「危ない所はどこか」といった目的や課題を持って歩いてはいけないと説きます。

​ 目的や課題を持ってしまうことで、そのことばかりに目が行ってしまい、他の物事を見たり感じたりしなくなるから(特にはとのこと)。そして現地を歩くときは、一人で行うこと。これはグループで行動すると集中して川を感じることが出来ない、気ままに歩けない、他人のコメントに左右されるといった、自分が素直に感じることへの弊害となるためです。

3.河川の堤防は長大なフィルダム

​ ここで、川の流れを形作るものとしてダムがありますが、一般的に3種類あります。コンクリートでつくられているコンクリートダム、粘土層の表面を岩石等で補強したロックフィルダム、土を盛っただけでつくられているフィルダムです。このなかで最も危険なダムはフィルダムです。他の2種は水を通さない構造ですが、フィルダムは土だけであるため水を通し、決壊しやすい特性を持っています。実際に決壊した殆どのダムがフィルダムであったということです。そのため、ダム建設の常識としてフィルダムは建設しないこととなっています。

ダムの種類.jpg

 河川の両側には堤防があります。堤防によって人家は守られていますが、その中身は単に土が盛られているだけです。つまり、河川の堤防は長大なフィルダムともいえます。

 ダムに携わる業務を長年経験されてきた宮本さんからすれば、これほど怖いものはないと感じたそうです。

 また、堤防の危険性については、明治時代の1890年、当時の内務省雇工師であったヨハネス・デレーケ(オランダ)が「単に土砂を盛揚げた堤防は、その表面に草が生えているので、上から見ればあたかも頑強に見えるが、其の実、堤防のそばに住んでいる人たちには甚だ危険である。」という報告書を内務大臣に提出しています。

​ しかし、現在に至っても同じ状況が続いています。

4.日本の治水計画は想定尽くし

 この間、豪雨による災害が起こるたびに、国や自治体は「想定外」という言葉を使います。自然現象は、いつ、どこで、どのような規模で起こるか想定できないものでありますが、日本の防災計画はこれらを全て想定して作られています。そして、その想定が覆されるたびに想定を見直すことを繰り返しています。

​ 例えば、河川の防災計画は、計画降雨を想定し、その雨による流量を想定します。そして、ダムによる洪水低減量を想定し、残りを川で流すための洪水量を想定します。これだけ見ても、いかに想定尽くしの計画であるかが分かります。

 「想定」をすることは悪いことではありませんが、その1つの「想定」を正しいと思い込んではなりません。

​ 「想定」はあくまで「想定」であるため、「想定」が間違っているということを「想定」する謙虚さが必要です。

流量の想定.jpg

5.洪水は防ぐものでなく凌ぐもの

 自然現象が想定できない以上、根本的に洪水を川に押し込めて防ぐことはできません。そのため、洪水は防ぐのではなく、「凌ぐ(しのぐ)」ものであると宮本さんは言います。

​ 先人の例として、京都市にある桂離宮は昔から桂川の氾濫に曝されていたため、桂離宮は高床式構造にし、敷地の周囲に笹垣を配置することで、土砂や泥水の侵入を軽減し、洪水を凌ぐことに重点が置かれていることを紹介しました。

 明治以来、河川に洪水エネルギーを集中させ、洪水を防ぐことに重点が置かれれてきましたが、治水の基本は洪水のエネルギーを出来るだけ穏やかに分散させることが重要であり、溢れさせる場所を作り、その場所の土地利用計画と一体となって実施していくことが重要です。

桂離宮.jpg

​高床式の構造

20210206桂離宮3.jpg

桂離宮の周囲の笹垣(向かって左が桂川、右側が笹垣)

20210206桂離宮笹垣アップ.jpg

レポート

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講演要旨(文責:宇治自治問研 H・T)

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